「長寿医療制度の見直しを求める意見書」

についての反対討論(中村きみえ議員)

2008.6.24

 自民党、公明党が提出しました「長寿医療制度の見直しを求める意見書(案)」について私どもは、制度の廃止を求めておりますので、見直しでは全く不十分ですので、反対討論をさせていただきます。
 そもそもこの制度を導入したその日から「長寿医療制度」と名称を変えてスタートせざるを得ないほど、大きな批判の声が沸きあがっています。

 提出された意見書については大きく分けて3点問題があります。

 1つは、「将来にわたり持続可能な制度」として掲げ、「高齢者の医療の質の向上と安定的な医療保険の仕組みを作ることを目指したもの」だと、制度を維持することを前提にして述べている点です。
 「保険料の負担のあり方や徴収方法などについて国民の十分な理解を得られていない」という認識も誤ったものです。単なる説明不足で理解を得られていないということではなく、制度そのものへの批判が高まっている背景を捉えていません。
 2つは、「税金や若い世代からの支援によって財政難を解消すると言う制度自体の骨格は維持すべきである」と述べている点です。これは、後期高齢者医療制度自体は、変えずに、運用面での改善を求めていることにすぎません。
 3つは、低所得者への保険料の負担軽減措置や、新たな負担の生じる被用者保険被扶養者に対する軽減措置の見直しを求めています。
 しかし、一時的に低所得者対策を実施しても、制度そのものを変えなければ将来にわたって負担増は続くだけです。

 なぜ見直しではダメなのか。廃止しなければならない理由は3点あります。

 第1の理由は、医療費削減のための高齢者差別法だからです。
 なぜ75歳以上を別枠に追いやる必要があるのか。日本共産党が追及すると政府は、(1)複数の病気にかかり治療が長期化する (2)認知症の人が多い (3)いずれ避けることのできない死を迎えるという「後期高齢者の心身の特性」をあげて、それにふさわしい医療にすると説明しています。要は、やがて死ぬのだからお金をかけるのはもったいないというものなのです。
 政府のねらいは、高齢者を別枠の医療保険に囲い込み、高い負担を押し付け診療報酬も別建てにすることで安上がりな差別医療を押し付けようとするものです。厚労省は、2015年度に2兆円、2025年度には5兆円を75歳以上の医療費の削減を捻出すると試算までしているんです。高齢者の医療を真っ先に削減するために後期高齢者医療制度がつくられたためです。
 後期高齢者医療制度という制度を作った国は世界のどこにもありません。命と健康に関わる医療に年齢での差別と高齢者への新たな負担増を持ち込み、長年社会に貢献してきた高齢者に苦しみを強いる「人の道」に反した政治は許されません。

 第2の理由は、制度は存続すればするほど、国民を苦しめるからです。
 4月15日、天引きされた保険料を見て千葉市内でも市に問い合わせが4月5月で1万5千件にものぼっていました。保険料額を見て、憤った方もたくさんいらっしゃいました。この保険料はこれから連続的に値上げされ天井知らずだと言うことがはっきりしています。
 保険料は2年ごとに見直され、75歳以上の人口が増えれば自動的に値上がりする制度になっています。その上、一人当たりの医療給付費が増えれば、もっと値上がりする仕組みです。見直し前の全国平均で7万2千円の保険料では、団塊の世代が後期高齢者となる2025年には16万円と2倍以上に高騰するという仕組みです。
 政府は6月12日、15日の年金天引きを前に見直し案を決めました。実施からわずか二ヵ月半で再び見直しに追い込まれたのは、この制度の矛盾の深さを示しています。
 政府は軽減策を「最大で九割軽減」などと宣伝していますが、軽減対象者は約360万人で75歳以上の1300万人の3割以下にすぎません。08年度は、経過措置として年金収入が年168万円以下の人は10月から保険料徴収を凍結し、均等割を8割5分に減額される案が出ています。また、所得割は、年金収入153万円から210万円までの人に半減することは県の広域連合次第というものです。
 今回、保険料の一部を下げたとはいえ、2年ごとの見直しで際限なく保険料を値上げしていく仕組みそのものは温存されています。そのため、将来の保険料が上がり続けることに変わりはありません。
 収入がない人でもすべての人が保険料を徴収しなければならず、保険料の取りっぱぐれがないように、年金からの天引き、しかも年金が少なく天引きできない人が保険料を滞納すれば保険証のとりあげをしてしまう。これまで高齢者からは保険証の取り上げが禁止されていたのに容赦なしです。
  政府案では、「相当な収入があるにもかかわらず保険料を納めない悪質な人に限り交付する」としていますが、高齢者から保険証を取り上げたら命取りになると言う人道的配慮が欠如しています。
 75歳を超えたと言うだけで病気の予防から、外来、入院、終末期まであらゆる場面でひどい差別が行なわれようとしているのです。
 健康づくりはいらないと健診を行政の義務からはずし、外来では定額制を導入し、必要な検査や治療を受けにくくするものです。
 月6千円、窓口負担では600円分の費用までが制度の中身でそれを超えた分は、医療機関の持ち出しとなるため、患者さんにとって必要な検査が受けられなくなります。
 入院では、「後期高齢者退院調整加算」をつくり、入院した後期高齢者の追い出しをすすめれば、医療機関の収入が増える仕組みをつくっているのです。
 さらに、終末期と診断されたら延命治療は無駄とばかりに、本人や家族に延命治療は控えめにと言う誓約書を書かせるための「後期高齢者終末期相談支援料」も導入されています。これも終末期医療の費用を削減し、在宅死を増やそうという政府の方針によるものです。
 政府案は、終末期相談支援料は、当面凍結を、後期高齢者診療料も検証すると言われていますが、当然のことです。
 葬祭費も千葉市の国保の金額よりも低く抑えたものが行なわれ、亡くなった後まで差別するのかと強い批判が上がっています。
 しかも、国は、定額制の対象医療をさらに拡大して検査、投薬、手術を制限すること、後期高齢者が受診する医師を一人のかかりつけ医に限定し、複数の診療科を受診しにくくすることも検討しています。
 この制度は存続するほど、高齢者と国民に過酷な痛みを押し付けようとするものなのです。

 第3の理由は、すべての世代に重い負担と医療切捨てを押し付ける制度です。
 この制度は高齢者だけでなくすべての世代に重い負担を押し付けるものだからです。
 政府、与党は「世代間の負担の公平」といい、あたかも現役世代の負担が軽くなるかのように言っています。
 しかし、団塊の世代が、後期高齢者になったときが高齢化のピークだから2025年度までに5兆円削減すると言うことを示しているんです。
 将来だけでなく、現役世代の組合健保や政管健保からの「後期高齢者支援金」は、これまでの老人保険制度への拠出金よりも増額され、健康保険組合連合会では5000億円の負担増になるとしています。
 扶養家族だった高齢者の保険料徴収を新たに行なうことは、現役世代の負担増になります。 
 また65歳以上の障害者も後期高齢者医療制度に事実上、強制的に加入させられる人が多く、負担増や差別医療が押し付けられます。
 あらゆる世代に負担増と医療切捨てが押し付けられるのです。それにもかかわらず、「世代間の公平」などと高齢者と現役世代との対立を意図的に持ち込もうとすることは許せるものではありません。
  このようにこの制度のもたらす害悪は計り知れないものがあります。高齢者差別と言う制度の理念そのものが間違っているのですから、小手先での見直しでなく制度を撤廃するしか解決の道はありません。

 後期高齢者医療制度を廃止すべきだと言う声は大きく広がっています。
 後期高齢者医療制度見直し後も、なお不満と制度を評価しない声が根強くあります。
 現場で高齢者の医療に責任を担う医療の専門団体である35都府県医師会が制度反対、見直しなどの表明をしています。このことは、この制度が矛盾に満ちていることの証明です。1都9県の関東甲信越医師会連合会は、後期高齢者診療料の廃止を決議しています。
 全国の560の自治体が国に中止や見直しを求める意見書を可決しています。
 制度の根幹に対する怒りが自民党議員の中でも起こっています。テレビ番組で野中広務元官房長官は、「銭勘定だけで人間としての尊厳を認めていない」と述べ、中曽根康弘元首相は、「至急、これは元に戻して、新しくもう一度考え直す、そういう姿勢をはっきり早くとる必要がある」と明言しています。政治的立場の違いを超えて与党の側からも発言されているんです。
 国会でも参議院で野党4党が廃止法案を提出し可決しています。衆議院で継続審議となっています。政令指定都市市長会からも、制度への批判が続いていることをあげています。
 6月8日の沖縄県議選挙では後期高齢者医療制度が選挙の大きな争点となり、強い批判を浴び、与野党逆転するなどこの制度への厳しい審判が下されてきています。
 この制度は存続するほど国民を苦しめ医療費削減のための高齢者差別法であり廃止しかありません。

 財源については、廃止しても3月までの制度に戻すだけですから、新たに大きな財源が必要になることはありません。
 国民すべてが安心できる医療制度をどうつくっていくのか国民的討論によって合意をつくることを私どもは呼びかけています。(1)国際的にも異常に高い窓口負担の引き下げ。(2)公的医療制度の縮小、解体を許さず保健医療を拡充する。(3)減らし続けた医療への国庫負担を計画的に元に戻す。
 以上のことを提案してきました。
 こうした方向で改革してこそ、病気の早期発見、早期治療をすすめ、結果として医療費の膨張を抑え、医療保険財政の立て直しと保険料の負担軽減に道を開くと考えています。 
 日本の医療費は、GDP比国内総生産比で8%と先進国でも最低です。アメリカ15.3%、フランス11.1%、ドイツ10.7%と税金の使い方、集め方を改めれば、財源についても確保することができます。
 医療を支える財源は、自公政権は大企業や高額所得者への7兆円もの減税はせずに、5兆円もの軍事費にメスを入れ、米軍再編に3兆円の支出をなくせば生み出すことができます。
 政治の姿勢さえ変えれば、消費税に頼らなくても安心できる医療、年金、介護など社会保障制度を支える財源を作ることはできます。

千葉市の高齢者、市民の願いを政府に届けるのが市議会の使命です。
 市議会という市民にとって一番身近な市民の声を直接聞き、市民にとって最善の利益を追求できるよう求める義務が議員には課せられていると思います。
 しかし、その地方議会で今これだけ問題としてあげられている時に、骨格は維持して見直しだけ求めると言う小手先の対応では市民は納得できません。
 市民の立場に立って、後期高齢者医療制度は廃止すべきだと市民を代弁して主張することは議会が果たす役割ではないでしょうか。
 政府に憲法25条の生存権を生かし、第14条の法の下の平等を達成するために長い間社会に貢献してきた高齢者が長生きしてよかったと言える制度にしていく必要があります。そのために市民の願いである後期高齢者医療制度は廃止を求めるようにするべきだと申し上げて反対討論といたします。