佐々木ゆうき議員の条例提案理由の説明

2010.8.26

写真 発議第26号・千葉市子どもの権利条例制定検討委員会設置条例の提案理由の説明を行ないます。この条例は、児童の権利に関する条約、いわゆる「子どもの権利条約」の理念に基づいた子どもの権利条例の制定について調査検討を行なうために、千葉市子どもの権利条例制定検討委員会を設置するというものです。

 私どもは、子どもの権利条例が必要であると考えます。すべての子どもに、幸福を求め、自分自身の人格や能力を発達させることを求める権利があります。

 日本政府が子どもの権利条約を批准してから16年が経ちました。5年ごとにその実施状況を審査している国連子どもの権利委員会が日本政府に対する最終所見を5月に発表しています。その最終所見は、日本の子どもの権利の各分野にわたる懸念や勧告を91節に及ぶものとなっています。

 過去2回にわたって、「高度に競争的で子どもの発達にゆがみをもたらしている」と指摘された教育制度については、「子どもの数が減少しているにもかかわらず、過度な競争への不満が増加し続けている」「高度に競争主義的な学校環境が、いじめ、精神的障害、不登校・登校拒否、中退および自殺に寄与している」という、これまで以上に厳しい懸念が表明されました。また、新しく指摘されたのが、「驚くべき数の子どもが情緒的幸福度の低さを訴えている」ことです。2007年の国連児童基金の子どもの幸福度調査では、日本の子どもの29.8%が「孤独感」を訴え、OECD加盟国平均7%を大きく上回っています。なぜ幸福だと感じられないのかについては、「その決定要因が子どもと親、および子どもと教師との間の関係の貧困さにある」としています。国連子どもの権利委員会の最終所見は、こうした「人間関係の貧困」の背景に、親や教師、子どもに接する大人の困難があることも指摘し、その変更を勧告しています。

 千葉市における不登校児童生徒数は、2009年度では小学生が前年度133人から143人に増加し、中学生は若干減少しているものの、不登校児童生徒数は前年度とほぼ同じ水準です。いじめなどがあって学校に行けなくなっても、その気持ちを聞かずに、ますます学校から離れてしまうケースもあります。

 さらに深刻なのは児童虐待です。7月28日付けの「毎日新聞」の報道によれば、厚労省は2009年度の児童虐待相談対応件数の速報値を発表し、過去最高の4万4,210件となっています。千葉市の直近の数値は、2008年に相談対応件数が400件を超え、2009年は364件となりましたが、県内の相談対応件数の約16%を占めています。国連子どもの権利委員会が指摘しているように、子どもと親との関係の貧困さがここに表れています。

 全国に先駆けて条例がつくられた兵庫県川西市では、子どもの人権オンブスパーソンの条例を1998年12月に制定をしています。子どもの人権を守るために人権侵害の救済と人権の擁護、人権侵害の防止に人権オンブスパーソン事務局が活動を展開しています。オンブズパーソン条例第6条に基づき、年次報告書を作成し、子どもの人権の擁護ため必要な制度の改善を提言しています。「子どもの利益の擁護及び代弁者として、並びに公的良心の喚起者として、市内の子どもの権利に係る事項についての相談に応じ、又は、子どもの人権案件を調査し、公平かつ適正にその職務を遂行しなければならない」と、オンブズパーソンの責務を掲げ、活動されています。

 そうした活動を反映して、相談の約半数が子どもから寄せられ、子どもオンブズパーソンを、子どもの約8割がこの制度を認識しています。いじめによる自殺や深刻な虐待を未然に防止できたとの報告があります。こうした取り組みは、川崎市人権オンブズパーソン条例や、札幌市子どもの最善の利益を実現するための権利条例にも、活かされています。このことからこの制度の必要性は明らかです。行政として子どもの人権を擁護するために様々な活動を進めなければなりません。

 今回、条例の制定までの検討を中心とする委員会を設置する条例ですが、その過程においても様々な議論をしていただくためのものです。いくつか例をあげれば、「権利は義務を伴うものであり、義務や責任を果たせない未熟な子どもに権利を与える必要ないのでは」や「条例ができたら、子どもが権利を主張して、保護者のしつけや教育がしづらくなるのでは」といった意見もあると思います。前者で言えば、子どもの権利は、暴力や虐待からの保護、発達する権利であり、子どもが健やかに成長するために欠かすことのできない人権であり、何らかの義務を果たすことの見返りに与えられるものではありません。社会で守るべき決まりや道徳を身につけることは重要であり、保護者は、子どもの発達に応じて適切な指示、指導を行う責任と権利があります。後者についても、子育ての第一義的責任は保護者にあります。保護者には子どもを監護し、教育する権利と義務があります。子どもが間違った権利を主張した場合には、当然、子どもに間違いであることを教える必要があります。こうした様々な意見や疑問など出し合い、千葉市において、子どもの最善の利益を保障するために、子どもの権利条例制定に向けた検討を行います。

 広島市では、条例制定をめざしていますが、2007年度から検討を始めています。同年10月から「広島市子どもの権利に関する条例について意見を聞く会」を15回開催。翌年、子どもへのアンケート調査とともに子どもの意見を聞く会の実施。子ども会議を昨年8月から11月まで計4回の開催で、「図書館や公民館などを充実させて、自ら学び、ゆっくり過ごせる場所を増やしてほしい」「身近な人に知られたくない悩みや不安を、メールや手紙などで相談できるところをつくり、信頼できる人に居てもらいたい」「スクールカウンセラーへ相談できる機会を増やしてほしい」など子どもたちの居場所や思い・意見、いじめなどについて、広島市長への提言書を提出しています。そして、「広島市子ども条例」制定の目的にも、子どもの遊び場の充実や教育環境の整備、子どもに関する総合的な相談支援拠点整備が掲げられ、子どもの権利の擁護については、子どもの人権救済機関の設置を位置づけています。このような内容の条例素案を掲載したパンフレットを保育園や小・中学校の保護者、高校生に配布し、子どもの権利について周知を図っています。先ほど紹介した川西市においても年2回、子どもオンブズパーソン制度のリーフレットを配布しています。このことから条例制定までの期間、千葉市としても「子どもの権利」について、子どもや保護者、関係団体への周知を行う行政としての責務も伴ってきます。

 千葉市子どもの権利条例制定検討委員会の構成として、委員は20名とします。大学教授や弁護士などの学識経験者や、PTA・保護者会、子ども会、小・中学校長会、人権擁護委員を含めた関係団体を代表する者、公募による市民とします。同委員会は必要に応じて部会を置くことができると条例第7条で規定し、この部会には子ども委員を募集し、子どもからの意見が反映できるようにします。

 札幌市では、条例素案の検討の過程で、05年に高校生3名と公募市民、学識経験者など含めた「子どもの権利条例制定検討委員会」、06年には、高校生から小学校高学年までの32名で「子どもの権利条例子ども委員会」を発足させ、条例素案を発表して、市に提案しています。

 千葉市の条例制定検討委員会では、川西市や検討を進めている広島市、条例制定した札幌市などの先進市に学び、条例検討を進めて、「子どもの権利」への理解と、条例制定とそれに伴う救済機関の設置の必要性について検討を行なう必要があります。何よりも子どもたちが自立した大人への成長できる社会の実現につながるものとなります。

 同僚・先輩議員の賛同をお願いして、条例の提案理由の説明を終わります。